映日紅の花

小さい頃、ピアノのお部屋から脱走するために窓に靴を隠していた。

結局、脱走に成功したことは2,3回しかないのだけど、その時の記憶とよく覚えている匂いが、どこでも嗅いだことがないはずなのにとても懐かしいさわやかなにおい。あのにおいをかぎながら、私はどこにでも行けると思っていた。(その頃、霧のむこうのふしぎな町が好きだったから、どこか違う世界に行く気満々だった)

今でも夏の初めにたまにその匂いがして、その頃の事を思い出す。その匂いがなんなのかはいまだにわからない。スティックのりみたいな匂い…あの匂いの香水があったら絶対買ってしまう。でも自分にしかわからない匂いなので、人に聞くわけにもいかないし。うーん。

霧の向こうなんて私には来なかったし脱走してもすぐ捕まってまたピアノを弾いてた。もうひとりの私はあの匂いを見失わずに霧のむこうに行けたのだろうか。もういいかい、と、後ろから言われている気がする。あのころ逃げ出したくてたまらなくて、ついに逃げ出すことができたもうひとりの私に。わたしは実のならない花になっちゃったよ。ごめんね。そのうち食べられちゃうかもしれない。でもあなたに食べられるならしょうがないかなって思うよ。

 

映日紅の花

映日紅の花

 

 

霧のむこうのふしぎな町 (新装版) (講談社青い鳥文庫)

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